室を出て、階段を上って二階の室へ這入った。そこには景気よく灯火《あかり》が点いて、聖降誕祭のお飾りが飾ってあった。そこにはまた死んだ子の傍へくっ附けるようにして、一脚の椅子が置いてあった。そして、つい[#「つい」に傍点]今し方まで誰かがそこに腰掛けていたらしい形跡があった。憐れなボブはその椅子に腰を下ろした。そして、少時考えていた後で、やや気が落ち着いた時、彼は死んだ子の冷たい顔に接吻した。こうして彼は死んだものはもう仕方がないと諦めた。そして、再び晴れやかな気持になって降りて行った。
一同の者は煖炉の周囲にかたまって話し合った。娘達と母親はまだ針仕事をしていた。ボブはスクルージの甥が非常に親切にしてくれたと一同の者に話した。彼とはやっと一度位しか会ったことがないのだが、今日途中で会った時、自分が少し弱っているのを見て、――「お前も知っての通り、ほん[#「ほん」に傍点]の少し許り弱っていたんだね」と、ボブは云った。――何か心配なことが出来たのかと訊いてくれた。「それを聞いて」と、ボブは云った。「だって、あの方はとても愉快に話しをする方だものね、そこで私も訳を話したのさ。すると、『そりゃ本当にお気の毒だね、クラチット君、貴方の優しい御家内のためにも心からお気の気だと思うよ』と云って下さった。時に、どうしてあの人がそんな事を知っているんだろうね? 私には分からないよ。」
「何を知っているのですって、貴方?」
「だって、お前が優しい妻《さい》だと云うことをさ」と、ボブは答えた。
「誰でもそんなことは知ってますよ」と、ピータアは云った。
「よく云ってくれた、ピータア」と、ボブは叫んだ。「誰でも知ってて貰いたいね。『貴方の優しい御家内のためには心からお気の毒で』と、あの方は云って下すったよ。それから『何か貴方のお役に立つことが出来れば』と、名刺を下すってね、『これが私の住居《すまい》です。なにとぞ御遠慮なく来て下さい』と云って下さったのさ。私がそんなに喜んだのは、なにもあの方が私達のために何かして下さることが出来るからってえんじゃない。いや、それもないことはないが、それよりもただあの方の親切が嬉しかったんだよ、親切がさ。実際あの方は私達のちび[#「ちび」に傍点]のティムのことを好く知ってでもいらして、それで私達に同情して下さるのかと思われる位だったよ。」
「本当に好い方です
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