中には「熊か」と訊いた時には、「然り」と答えられべきものであった。「否」と否定の返辞をされては、折角その方へ気が向き掛けていたとしても、スクルージ氏から他の方へ考えを転向させるに十分であったからねと抗議した者もあるにはあった。
「あの人は随分僕達を愉快にしてくれましたね、本当によ」とフレッドは云った。「それであの人の健康を祝って上げないじゃ不都合だよ。ちょうど今手許に薬味を入れた葡萄酒が一瓶あるからね。さあ、始めるよ、『スクルージ伯父さん!』」
「宜しい! スクルージの伯父さん!」と、彼等は叫んだ。
「あの老人がどんな人であろうが、あの人にも聖降誕祭お目出度う、新年お目出度う!」と、スクルージの甥は云った。「あの人は僕からこれを受けようとはしないだろうが、それでもまあ差し上げましょうよ、スクルージの伯父さん!」
スクルージ伯父は人には知らないままで気も心も浮々と軽くなった。で、若し精霊が時間を与えてくれさえしたら、今の返礼として自分に気の附かない一座のために乾盃して、誰にも聞えない言葉で彼等に感謝したことであろう。が、その全場面は、彼の甥が口にした最後の一語がまだ切れない間に掻き消されてしまった。そして、彼と精霊とはまたもや旅行の途に上った。
彼等は多くを見、遠く行った。そして、いろいろな家を訪問したが、いつも幸福な結果に終った。精霊が病床の傍に立つと、病人は元気になった。異国に行けば、人々は故郷の近くにあった。悶え苦しんでいる人の傍に行くと、彼等は将来のより[#「より」に傍点]大きな希望を仰いで辛抱強くなった。貧困の傍に立つと、それが富裕になった。施療院でも、病院でも、牢獄でも、あらゆる不幸の隠棲《かくれが》において、そこでは虚栄に満ちた人が自分の小さな果敢ない権勢をたのんで、しっかり戸を閉めて、精霊を閉め出してしまうようなことがないからして、彼はその祝福を授けて、スクルージにその教訓を垂れたのであった。
これが只の一夜であったとすれば、随分長い夜であった。が、スクルージはこれについて疑いを抱いていた。と云うのは、聖降誕祭の祭日全部が自分達二人で過ごして来た時間内に圧縮されてしまったように見えたからである。また不思議なことには、スクルージはその外見が依然として変らないでいるのに、精霊は段々年を取った、眼に見えて年を取って行った。スクルージはこの変化に気が附い
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