たそれをやった。と云うのは、彼も今(自分の前に)行われていることの興味に引かれて、自分の声が彼等の耳に何等の響も持たないことをすっかり忘れて、時々大きな声で自分の推定を口にした。そして、それがまた中々好く中ったものだ。何故ならば、めど[#「めど」に傍点]切れがしないと保険附きのホワイトチャペル製の一番よく尖った針でも、ぼんやり[#「ぼんやり」に傍点]だと自分で思い込んでいるスクルージほど鋭くはないのだから。
 こう云う気分で彼がいたのは、精霊には大層気に適ったらしい。で、彼はお客が帰ってしまうまでここに居させて貰いたいと子供のようにせがみ出したほど、精霊は御機嫌の好い体で彼を見詰めていた。が、それは罷りならぬと精霊は云った。
「今度は新しい遊戯で御座います」と、スクルージは云った。「半時間、精霊殿、たった半時間!」
 それは Yes and No と云う遊戯であった。その遊戯ではスクルージの甥が何か考える役になって、他の者達は、彼が彼等の質問に、それぞれその場合に応じて、Yes とか No とか返辞をするだけで、それが何であるかを云い当てることになった。彼がその衝に当って浴びせられた、てきぱきした質問の銃火は、彼からして一つの動物について考えていることを誘《おび》き出した。それは生きている動物であった、何方かと云えば不快《いや》な動物、獰猛な動物であった、時々は唸ったり咽喉を鳴らしたりする、また時には話しもする、倫敦《ロンドン》に住んでいて、街も歩くが、見世物にはされていない、また誰かに引廻わされている訳でもない、野獣苑の中に住んで居るのでもないのだ、また市場で殺されるようなことは決してない、馬でも、驢馬でも、牝牛でも、牡牛でも、虎でも、犬でも、豚でも、猫でも、熊でもないのだ。新らしい質問が掛けられる度に、この甥は新にどっと笑い崩れた、長椅子から立ち上って床《ゆか》をドンドン踏み鳴らさずに居られないほどに、何とも云いようがないほどくすぐられて面白がった。が、とうとう例の肥った娘が同じように笑い崩れながら呶鳴った。――
「私分かりましたわ! 何だかもう知っていますよ、フレッド! 知っていますよ。」
「じゃ何だね?」と、フレッドは叫んだ。
「貴方の伯父さんのね、スクル――ジさん!」
 確かにその通りであった。一同はあっ[#「あっ」に傍点]と感嘆これを久しゅうした。でも、
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