オないで、もとから持っている欠点ばかりをふやそうとしている。わざ/\骨を折っては、欠点をふやす工夫や発明をしているみたいなものだ。
 ところで、お前は、お前の国のヤーフどもの有様をいろ/\話してくれたが、お前たちと、この国のヤーフとは、身体の恰好がよく似ているだけでなく、心の方もよく似ていると思えるのだ。ヤーフどもがお互に憎み合うのは、ほかの動物には見られないほど猛烈なもので、それは誰でも知っていることなのだが、この国のヤーフどもの争いも、お前が言ったお前たちのその争いも、どちらも、どうもよく似ているのだ。
 もし、こゝにヤーフが五匹いるとして、そこへ五十人分ぐらいの肉を投げてやるとする。すると、彼等はおとなしく食べるどころか、一人で全部を取ろうとして、たちまち、ひどいつかみ合いがはじまる。だから、彼等が外で物を食べるときには、召使を一人そばに立たせておくことにするし、家にいるときは、お互に遠くへ離してつないでおく。
 また、牛が死んだりした場合、それをフウイヌムが家のヤーフのために買って戻ると、間もなく近所のヤーフどもが群をなして盗みに来る。そして、お前が言ったと同じような戦争がはじまる。爪で引っ掻き合って大怪我をする。たゞ幸いなことに、お前たちの発明したような、人殺し器械はないので、めったに死ぬようなことはない。また、あるときは、何の理由もないのに、近所同士のヤーフどもが、同じような戦争をはじめる。つまり近所同士で、折もあらば不意をおそってやろうと、隙をねらっているのだ。」
 それから、主人はさらに次のような珍しい話をしてくれました。
 この国の、ある地方の野原には、さま/″\の色に光る石があって、これがヤーフどもの大好物なのです。もし、この石が地面から半分ほど、のぞいていたりすると、ヤーフは何日でも、朝から晩まで爪で掘り返しています。そして家に持って帰ると、それを小屋の中にそっと隠しておきますが、まだそれでも、もしか仲間に嗅ぎ出されはしないかと、ギョロ/\と目を見張っています。
 主人は、どうしてまたこんな石をヤーフどもが大切がるのか、さっぱりわからなかったのですが、一度試しに、ヤーフが埋めている場所から、そっとこの石を取りのけておきました。すると、このさもしい動物は、宝がなくなっているのに気づいて、大声で泣きわめき、仲間をすっかりそこへ呼び集めました。そして、さも哀れげに悲しんでいるかとおもうと、たちまち誰彼の区別もなく噛みついたり、引っ掻いたり大騒ぎをします。それからだん/\元気がなくなって、物も食べなければ、眠りもしません。そこで主人は、その石をまたもとのところへ返してやりました。それを見ると、ヤーフはすぐ機嫌もよくなり、元気になったということです。
 この光る石がたくさん出る土地にかぎって、ヤーフどもは絶えず、その土地を争い合って、お互に戦争します。二匹のヤーフが野原で、この石を見つけると、互ににらみ合って争います。そこへもう一匹のヤーフが現れて、横取りすることもあるそうです。
 それから、ヤーフという奴は、とき/″\、気が変になるらしく、たゞ隅っこに引っ込んでしまい、寝ころがって、吠えたり唸ったり、誰かそばへ寄ると、たちまち蹴とばしてしまいます。まだ年も若いし、肉附きもいゝし、別に食物が欲しいわけでもないのです。一たいどこが悪いのか、さっぱりわかりません。ところが、こんな場合、ヤーフを無理にどん/\働かせると、この病気はケロリと治るそうです。
 こんなふうに、私は主人から、ヤーフの性質をいろ/\聞かされました。
 それではひとつぜひ、どこか近所のヤーフの群を訪問させてください、と私は頼みました。主人は快く承知して、召使の月毛の子馬を、私の附添いに命じました。この附添いがいなかったら、とても私はヤーフの近くに行くことはできなかったのです。私が最初この国に来たとき、この忌まわしい動物にいじめられたことは、前にも言ったとおりですが、その後も、私はうっかり短剣を忘れて外に出たときなど、三四度も危く爪にかけられるところでした。
 それに、どうやら彼等の方でも、私が同種族のものであることに、うす/\感づいていたようです。私は附添いと一しょにいるときなど、よく袖をまくりあげて、腕や胸を見せてやりました。すると彼等は、いつも私のすぐ傍まで来て、ちょうどあの猿の人まねと同じように、しきりに私の恰好をまねますが、いつも憎々しげな顔つきで、それをやるのでした。
 彼等は子供のときから、とても敏捷です。あるとき私は三歳の子を一匹捕えて、手なずけようとしましたが、相手は、恐ろしい勢いで、喚いたり、引っ掻いたり、噛みつくので、とう/\放してやりました。私の見たところでは、ヤーフほど教えにくい動物はいません。できることゝいえば、荷物を引いたり、かついだりすることぐらいです。
 フウイヌムたちは、家から少し離れたところに、小屋を作って、ヤーフを飼っていますが、その他のヤーフは、すべて野原に放し飼いにされているのです。彼等はそこで、木の根を掘ったり、草を食ったり、肉をあさったり、ときには、いたち[#「いたち」に傍点]を捕えて食べます。そして丘などの側に、爪で深い穴を掘って、その中に寝ます。彼等は子供のときから、水泳ぎや、水潜りができます。こうしてよく魚を捕えては、牝が家に持って帰って、子供に食べさせます。
 ところで、なにしろ、私はこの国に三年も住んでいたのですから、この国の住民たちの風俗や習慣を、こゝに少し述べておきます。
 このフウイヌム族というのは、生れつき、非常に徳の高い性質を持っています。彼等の格言は、『理性を磨け。理性によって行え。』というのでした。
 友情と厚意は、フウイヌムの美徳です。どんな遠い国から来た知らない人でも、まるで友達のようにもてなされます。どこへ行っても、自分の家と同じように安心できます。みんなは、非常に上品で、つゝしみ深いのですが、ちょっとも、わざとらしいところがありません。自分の子供も他所の子供も、同じように可愛がります。子供の教育の仕方は、なか/\立派なのです。十八歳になるまでは、ある定まった日でなければ、からす[#「からす」に傍点]麦など一粒も口にすることを許されません。夏は午前に二時間と、午後に二時間ずつ、草を食べさせてもらいますが、この規則を親たちもきちんと守ります。
 フウイヌムは、その子弟を強くするために、険しい山や石ころ道を走らせます。汗だくになると、今度は河の中にザンブリ頭から跳び込ませるのです。それから、一年に四回、若い男女が集って、駈けくらや、跳込み、そのほか、いろ/\の競技をします。勝った者には、それをほめる歌が与えられます。
 フウイヌムは文字というものを、まるで持っていません。知識は親から子へ口で伝えるのです。彼等は詩を作ることが、とても上手です。友情や善意を歌ったものと、運動の優勝者をほめたものと、なか/\美しい詩があります。
 フウイヌムたちは、病気にかゝるということがないので、医者はいません。しかし、怪我をしたときつける薬は、ちゃんと備えてあります。彼等は、病気にかゝつて死ぬようなことはなく、たゞ年をとって自然に衰えて死ぬのです。そして、死人は人目につかない場所にそっと葬られます。臨終だといって、誰も悲しんだりするものはありません。死んでゆく本人でさえ、ちょっとも悲しそうな顔はしていないのです。
 彼等は大てい、七十か七十五まで生きます。たまには八十まで生きるものもいます。死ぬ二三週間前になると、だん/\身体が弱ってきますが、別につらくはないのです。そうなると、友達が次々に訪ねて来ます。つまり、気楽にちょっと外出するようなことができないからです。いよ/\死ぬ十日前頃には、今度は橇《そり》に乗って、ヤーフどもに引かせて、ごく近所の人たちだけに答礼に出かけてゆきます。彼は答礼先へ着くと、まず、お別れの挨拶をのべるのですが、それはまるで、どこか遠いところへ旅行するときの別れのような恰好なのです。
 私は、主人の家から六ヤードばかり離れたところに、自分の室を一つ作らせてもらいました。
 壁は自分で塗り、床には自分で作った筵《むしろ》を敷きました。この国には麻が多いので、それを打って、蒲団のおゝいを作り、その中に鳥の羽毛を詰めました。骨の折れる仕事は子馬に手伝ってもらい、小刀で椅子を二つこしらえました。服が擦り切れると、これは兎の皮で代りを作りました。この皮からは、立派な靴下もできました。私はよく木のうろ[#「うろ」に傍点]から蜜を取って来て、水に混ぜて飲んだり、パンにつけて食べました。
 私は、主人のところへ訪ねて来る、フウイヌムのお客たちとも、知り合いになりました。
 主人の部屋に、私の方から出かけて行くこともあり、ときには、主人やお客が、私の部屋に訪ねて来ることもあります。それから、またときには、主人のお供をして、お客の家に訪ねて行くこともありました。
 私は質問に答えるほかは、こちらから口を出して、しゃべったりするようなことはしなかったのです。たゞ、そばで彼等の話を聞いていれば、それだけで、私は気持よかったのです。
 彼等の話は、ちょっとも無駄なところがなく、簡単で、はっきりしていました。ちゃんと礼儀は守られていて、堅苦しいところがないのです。しゃべることは、話す方も楽しければ、聞く方も気持よくなるようなことばかりです。じゃま[#「じゃま」に傍点]も入らねば、退屈もなく、のぼせたり、争ったりするようなことはないのです。
 彼等は大てい、友情とか、慈善とか、秩序とか、経済などのことを話し合います。それから、詩の話もよく出ます。私はヨーロッパで一番偉い人たちの集まりに出るよりも、ここで、フウイヌムの話を開いている方が、ずっと誇らしく思えました。
 私はこの国の住民たちの力と美と速さを感心しました。そして、このような穏やかな、立派な人格を、私はだん/\尊敬するようになりました。
 そして私は、自分の家族や友人、同胞などを考えてみると、とてもひどく恥かしくなりました。ヤーフと私たちが違うのは、たゞ人間の方は言葉が話せるということだけで、理性はかえって悪いことに使われています。よく、泉や湖にうつる自分の姿を見たときなど、私は思わず顔をそむけたくなりました。

     4 ヤーフ君、お大事に

 私はこの国にいつまでも住んでいたい、と思うようになりました。ところが、どうしても、この国を立ち去らねばならぬことがもちあがりました。
 この国では、四年ごとに全国から、代表者が集って、会議を開くのです。この会議は野原で、五六日つゞけられます。私の主人も、今度その会議に、代表者として、出て行ったのです。
 ところで、今度の会議で問題になったのは、ヤーフをこの地上に生かせておいて、いゝか悪いかという問題でした。
 一人の議員は次のように演説しました。
「およそ、世の中にヤーフほど、不潔で、いやらしいものはない。彼等はこっそり、牛の乳を吸うやら、猫を殺して食べるやら、畑を荒すやら、ろくなことはしない。
 このヤーフというものは、もとからこの国にいたものではない。伝説によると、あるとき、突然、山の上に二匹のヤーフが現れたという。これは、太陽の熱で腐った泥の中から生れたものかどうか、よくわからないが、一度生れて来ると、子供がずん/\ふえて、たちまち全国にひろがってしまった。
 そこでフウイヌムたちは大山狩をして、ヤーフたちを取り囲み、年とったものを殺してしまい、若いのだけ、フウイヌム一人について二匹ずつ、小屋を作って飼うことにした。そこで、あばれものゝ動物も、少しは馴らされ、とにかく物を引かせたり、運ばせたりするくらいの役には立つようになった。
 しかし、住民たちは、ヤーフを使っているうちに、ついうっかり驢馬をふやすことを忘れてしまった。驢馬はヤーフにくらべて、すばしこくはないが、その代り形もいゝし、おとなしくて、臭くもない。われ/\は、あのいやらしいヤーフは殺して、その代りに驢馬を使った方
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