獅ニいうことです。
 頭には、宝石をちりばめた軽い黄金の兜《かぶと》をいたゞき、頂きに羽根飾りがついていますが、着物は大へん質素でした。手には、長さ三インチぐらいの剣を握っておられます。その柄《え》と鞘《さや》は黄金で作られ、ダイヤモンドがちりばめてあります。
 皇帝の声はキイ/\声ですが、よく開きとれます。女官たちは、みんな綺麗な服を着ています。だから、みんなが並んで立っているところは、まるで、金糸銀糸の刺繍の衣を地面にひろげたようでした。
 皇帝は何度も私に話しかけられましたが、残念ながら、どうもお互に、言葉が通じません。二時間ばかりして、皇帝をはじめ一同は帰って行きました。あとに残された私には、ちゃんと番人がついて、見張りしてくれます。つまり、これは私を見に押しかけて来るやじ[#「やじ」に傍点]馬のいたずらを防ぐためです。
 やじ[#「やじ」に傍点]馬どもは、勝手に私の近くまで押しよせ、中には、私に矢を射ようとするものまでいました。一度など、その矢が、私の左の眼にあたるところでした。が、番人はさっそく、そのやじ[#「やじ」に傍点]馬の中の、頭らしい六人の男をつかまえて、私に引き渡してくれました。番人の槍先で、私の近くまで、その六人が追い立てられて来ると、私は一度に六人を手でつかんでやりました。
 五人は上衣のポケットにねじこみ、あとの一人には、そら、これから食ってやるぞ、というような顔つきをして見せました。すると、その男は私の指の中で、ワー/\泣きわめきます。
 私が指を口にもってゆくと、ほんとに食われるのではないかと、番人も見物人も、みんな、ハラ/\していたようです。が、間もなく、私はやさしい顔つきに返り、その男をそっと地面に置いて、放してやりました。他の五人も、一人ずつ、ポケットから引っ張り出して、許してやりました。すると番人も見物人も、ほっとして、私のしたことに感謝している様子でした。
 夜になると、見物人も帰るので、ようやく私は家の中にもぐりこみ、地べたで寝るのでした。二週間ばかりは、毎晩地べたで寝たものです。が、そのうちに皇帝が、私のためにベッドをこしらえてやれ、と言われました。普通の大きさのベッドが六百、車に積んで運ばれ、私の家の中で、それを組み立てました。

     2 人間山

 私の噂は国中にひろまってしまいました。お金持で、暇のある、物好きな連中が、毎日、雲のように押しかけて来ます。
 そのために、村々はほとんど空っぽになり、畑の仕事も家の仕事も、すっかりお留守になりそうでした。で、皇帝から命令が出ました。見物がすんだ人はさっさと帰れ、無断で私の家の五十ヤード以内に近よってはいけない、と、こんなことが決められました。
 ところで、皇帝は何度も会議を開いて、一たい、これはどうしたらいゝのかと、相談されたそうです。聞くところによると、朝廷でも、私の取り扱いには、だいぶ困っていたようです。あんな男を自由の身にしてやるのも心配でしたが、なにしろ、私の食事がとても大へんなものでしたから、これでは国中が飢饉になるかもしれない、というのです。
 いっそのこと、何も食べさせないで、餓死させるか、それとも、毒矢で殺してしまう方がよかろう、と言うものもありました。
 だが、あの男に死なれると、山のような死体から発する臭《におい》がたまらない、その悪い臭は、国中に伝染病をひろげることになるだろう、と説くものもありました。
 ちょうど、この会議の最中に、私があの六人のやじ[#「やじ」に傍点]馬を許してやったことが伝えられました。すると、皇帝も大臣も、私の行いに、すっかり感心してしまいました。
 さっそく、皇帝は、勅命で、私のために、村々から毎朝牛六頭、羊四十頭、そのほかパン、葡萄酒などを供出するよう、命令されました。
 それから、六百人のものが、私の御用係にされ、私の家の両側にテントを張って寝とまりすることになりました。それから私の服を作ってくれるために、三百人の仕立屋が、やとわれました。
 それから、宮廷で一番えらい学者が六人、この国の言葉を私に教えてくれることになりました。私は三週間ぐらいで、小人国の言葉がしゃべれるようになりました。
 皇帝もとき/″\私のところへ訪ねて来られました。私は皇帝にひざまずいて、
「どうか、私を自由な身にしてください。」
 と何度もお願いしました。
 すると皇帝は、
「もうしばらく待て。」
 と言われるのでした。
「自由な身にしてもらうには、お前はまず、この国と皇帝に誓いをしなければいけない。それから、お前はいずれ身体検査をされるが、それも悪く思わないでくれ。たぶん、お前は何か武器など持っていることだろうが、お前のその大きな身体で使う武器なら、よほど危険なものにちがいない。」
 私は皇帝に
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