フ柱を八十本立て、それから、私の身体をぐる/\まきにしている紐の上に、丈夫な綱をかけました。そして、この綱を柱にしかけてある滑車で、えんさ/\と引き上げるのです。九百人の男が力をそろえて、とにかく私を車台の上に吊し上げて結びつけてしまいました。すると、千五百頭の馬が、その車を引いて、私を都の方へつれて行きました。もっとも、これは、みんなあとから人に聞いて知った話なのです。
車が動きだしてから、四時間もした頃のことです。何か故障のため、車はしばらく停まっていましたが、そのとき、二三の物好きな男たちが、私の寝顔はどんなものか、それを見るために、わざ/\車によじのぼって来ました。
はじめは、そっと顔のあたりまで近づいて来たのですが、一人の男が、手に持っていた槍の先を、私の鼻の孔にグイと突っ込んだものです。こより[#「こより」に傍点]で、つゝかれたようなもので、くすぐったくてたまりません。思わず知らず、大きなくしゃみ[#「くしゃみ」に傍点]と一しょに私は目がさめました。
日が暮れてから、車は休むことになりましたが、私の両側には、それ/″\五百人の番兵が、弓矢や炬火《たいまつ》をかゝげて取り囲み、私がちょっとでも身動きしようものなら、すぐ取り押えようとしていました。翌朝、日が上ると、車はまた進みだしました。そして正午頃、車は都の近くにやって来ました。皇帝も、大臣も、みんな出迎えました。皇帝が私の身体の上にのぼってみたがるのを、それは危険でございます、と言って、大臣たちはとめていました。
ちょうど、車が停まったところに、この国で一番大きい神社がありました。こゝは前に、何か不吉なことがあったので、今では祭壇も取り除かれて、中はすっかり空っぽになっていました。この建物の中に、この私を入れることになったのです。北に向いた門の高さが約四フィート、幅は二フィートぐらい、こゝから、私は入り込むことができます。私の左足は、錠前でとめられ、左側の窓のところに、鎖でつながれました。
この神社の向側に見える塔の上から、皇帝は臣下と一しょに、この私を御見物になりました。なんでも、その日、私を見物するために、十万人以上の人出があったということです。それに、番人がいても、梯子をつたって、この私の身体にのぼった連中が、一万人ぐらいはいました。が、これは間もなく禁止され、犯したものは死刑にされることになりました。
もう私が逃げ出せないことがわかったので、職人たちは、私の身体にまきついている紐を切ってくれました。それで、はじめて私は立ち上ってみたのですが、いや、なんともいえない厭《いや》な気持でした。
ところで、私が立ち上って歩きだしたのを、はじめて見る人々の驚きといったら、これまた、大へんなものでした。足をつないでいる鎖は、約二ヤードばかりあったので、半円を描いて往復することができました。
立ち上って、私はあたりを見まわしましたが、実に面白い景色でした。附近の土地は庭園がつゞいているようで、垣をめぐらした畑は花壇を並べたようです。その畑のところどころに、森がまざっていますが、一番高い木でまず七フィートぐらいです。街は左手に見えていましたが、それはちょうど、芝居の町そっくりでした。
さきほどまで、塔の上から私を見物していた皇帝が、今、塔をおりて、こちらに馬を進めて来られました。が、これはもう少しで大ごとになるところでした。というのは、この馬はよく馴《な》れた馬でしたが、私を見て山が動きだしたように、びっくりしたものですから、たちまち後足で立ち上ったのです。しかし、皇帝は馬の達人だったので、鞍《くら》の上にぐっと落ち着いていられる、そこへ、家来が駈けつけて、手綱を押える、これでまず、無事におりることができました。
皇帝は、私を眺めまわし、しきりに感心されています。が、私の鎖のとゞくところへは近寄りません。それから、料理人たちに、食物を運べと言いつけられます。すると、みんなが、御馳走を盛った、車のような容《い》れものを押して来ては、私のそばにおいてくれます。
容れものごと手でつかんで、私はペロリと平げてしまいます。肉が二十車、飲物が十車、どれもこれも平げてしまいました。
皇后と若い皇子皇女たちは、たくさんの女官に附き添われて、少し離れた椅子のところにいましたが、皇帝のさきほどの馬の騒ぎのとき、みんな席を立って、皇帝のところに集って来ました。こゝで、皇帝の様子を、ちょっと述べてみましょう。
皇帝の身長は、宮廷の誰よりも、高かったのです。ちょうど、私の爪の幅ほど高かったようです。が、これだけでも、なか/\立派に見えます。男らしい顔つきで、きりっとした口許《くちもと》、弓なりの鼻、頬はオリーブ色、動作はもの静かで、態度に威厳があります。年は二十八年と九ヵ
前へ
次へ
全63ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
スウィフト ジョナサン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング