硯友社の沿革
尾崎紅葉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)夙《かね》て

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)自分|一人《ひとり》で

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)後※[#二の字点、1−2−22]《のち/\》

 [#…]:返り点
 (例)遊[#二]松島[#一]記

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)めい/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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夙《かね》て硯友社《けんいうしや》の年代記《ねんだいき》を作つて見やうと云《い》ふ考《かんがへ》を有《も》つて居《ゐ》るのでありますが、書いた物は散佚《さんゐつ》して了《しま》ふし、或《あるひ》は記憶《きおく》から消え去つて了《しま》つた事実などが多い為《ため》に、迚《とて》も自分|一人《ひとり》で筆《ふで》を執《と》るのでは、十分な事を書く訳《わけ》には行かんのでありますから、其《そ》の当時《たうじ》往来《わうらい》して居《を》つた人達《ひとたち》に問合《とひあは》せて、各方面《かくはうめん》から事実を挙《あ》げなければ、沿革《えんかく》と云《い》ふべき者を書く事は出来《でき》ません、
其《これ》に就《つい》て不便《ふべん》な事は、其昔《そのむかし》朝夕《あさいふ》に往来《わうらい》して文章を見せ合つた仲間の大半は、始《はじめ》から文章を以《もつ》て身を立《たて》る志《こゝろざし》の人でなかつたから、今日《こんにち》では実業家《じつげふか》に成《な》つて居《を》るのも有れば工学家《こうがくか》に成《な》つて居《を》るのも有る、其他《そのた》裁判官《さいばんくわん》も有る、会社員も有る、鉄道の駅長も有る、中《なか》には行方不明《ゆくへふめい》なのも有る、物故《ぶつこ》したのも有る、で、銘々《めい/\》業《げふ》が違《ちが》ふからして自《おのづ》から疎遠《そゑん》に成《な》る、長い月日には四|方《はう》に散《さん》じて了《しま》つて、此方《こちら》も会ふのが億劫《おくゝふ》で、いつか/\と思ひながら、今だに着手《ちやくしゆ》もせずに居《を》ると云《い》ふ始末《しまつ》です、今日《こんにち》お話を為《す》るのは些《ほん》の荒筋《あ
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