けるに似たり。寄せては返す波の音も眠《ねむ》げに怠りて、吹来る風は人を酔はしめんとす。打連れてこの浜辺を逍遙《しようよう》せるは貫一と宮となりけり。
「僕は唯《ただ》胸が一杯で、何も言ふことが出来ない」
 五歩六歩《いつあしむあし》行きし後宮はやうやう言出でつ。
「堪忍《かんにん》して下さい」
「何も今更|謝《あやま》ることは無いよ。一体今度の事は翁《をぢ》さん姨《をば》さんの意から出たのか、又はお前さんも得心であるのか、それを聞けば可《い》いのだから」
「…………」
「此地《こつち》へ来るまでは、僕は十分信じてをつた、お前さんに限つてそんな了簡《りようけん》のあるべき筈《はず》は無いと。実は信じるも信じないも有りはしない、夫婦の間《なか》で、知れきつた話だ。
 昨夜《ゆふべ》翁さんから悉《くはし》く話があつて、その上に頼むといふ御言《おことば》だ」
 差含《さしぐ》む涙に彼の声は顫《ふる》ひぬ。
「大恩を受けてゐる翁さん姨さんの事だから、頼むと言はれた日には、僕の体《からだ》は火水《ひみづ》の中へでも飛込まなければならないのだ。翁さん姨さんの頼なら、無論僕は火水の中へでも飛込む精神だ
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