ると実に気障《きざ》な奴だね、さうしてどうだ、あの高慢ちきの面《つら》は!」
「貫一さん」母は卒《にはか》に呼びかけたり。
「はい」
「お前さん翁《をぢ》さんから話はお聞きでせうね、今度の話は」
「はい」
「ああ、そんなら可いけれど。不断のお前さんにも似合はない、そんな人の悪口《あつこう》などを言ふものぢやありませんよ」
「はい」
「さあ、もう帰りませう。お前さんもお草臥《くたびれ》だらうから、お湯にでも入つて、さうして未《ま》だ御午餐《おひる》前なのでせう」
「いえ、※[#「※」は「さんずい+氣」、64−10]車《きしや》の中で鮨《すし》を食べました」
三人《みたり》は倶《とも》に歩始《あゆみはじ》めぬ。貫一は外套《オバコオト》の肩を払はれて、後《うしろ》を捻向《ねぢむ》けば宮と面《おもて》を合せたり。
「其処《そこ》に花が粘《つ》いてゐたから取つたのよ」
「それは難有《ありがた》う!!!」
第 八 章
打霞《うちかす》みたる空ながら、月の色の匂滴《にほひこぼ》るるやうにして、微白《ほのじろ》き海は縹渺《ひようびよう》として限を知らず、譬《たと》へば無邪気なる夢を敷
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