は些少《わづか》なりともおのれの姿の多く彼の目に触れざらんやうにと冀《ねが》へる如く、木蔭《こかげ》に身を側《そば》めて、打過《うちはず》む呼吸《いき》を人に聞かれじとハンカチイフに口元を掩《おほ》ひて、見るは苦《くるし》けれども、見ざるも辛《つら》き貫一の顔を、俯《ふ》したる額越《ひたひごし》に窺《うかが》ひては、又唯継の気色《けしき》をも気遣《きづか》へり。
唯継は彼等の心々にさばかりの大波瀾《だいはらん》ありとは知らざれば、聞及びたる鴫沢の食客《しよくかく》の来《きた》れるよと、例の金剛石《ダイアモンド》の手を見よがしに杖を立てて、誇りかに梢を仰ぐ腮《あぎと》を張れり。
貫一は今回《こたび》の事も知れり、彼の唯継なる事も知れり、既にこの場の様子をも知らざるにはあらねど、言ふべき事は後にぞ犇《ひし》と言はん、今は姑《しばら》く色にも出さじと、裂けもしぬべき無念の胸をやうやう鎮《しづ》めて、苦《くるし》き笑顔《ゑがほ》を作りてゐたり。
「宮《みい》さんの病気はどうでございます」
宮は耐《たま》りかねて窃《ひそか》にハンカチイフを咬緊《かみし》めたり。
「ああ、大きに良いので、も
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