《オバコオト》を着て、肩には古りたる象皮の学校|鞄《かばん》を掛けたり。彼は間貫一にあらずや。
 再び靴音は高く響きぬ。その驟《にはか》なると近きとに驚きて、三人《みたり》は始めて音する方《かた》を見遣《みや》りつ。
 花の散りかかる中を進来《すすみき》つつ学生は帽を取りて、
「姨《をば》さん、参りましたよ」
 母子《おやこ》は動顛《どうてん》して殆《ほとん》ど人心地《ひとごこち》を失ひぬ。母親は物を見るべき力もあらず呆《あき》れ果てたる目をば空《むなし》く※[#「※」は「目+登」、61−3]《みは》りて、少時《しばし》は石の如く動かず、宮は、あはれ生きてあらんより忽《たちま》ち消えてこの土と成了《なりをは》らんことの、せめて心易《こころやす》さを思ひつつ、その淡白《うすじろ》き唇《くちびる》を啖裂《くひさ》かんとすばかりに咬《か》みて咬みて止《や》まざりき。
 想ふに彼等の驚愕《おどろき》と恐怖《おそれ》とはその殺せし人の計らずも今生きて来《きた》れるに会へるが如きものならん。気も不覚《そぞろ》なれば母は譫語《うはごと》のやうに言出《いひいだ》せり。
「おや、お出《いで》なの」
 宮
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