う。直《ぢき》其処《そこ》まででありますよ」
宮は小《ちひさ》き声して、
「御母《おつか》さんも一処に御出《おいで》なさいな」
「私かい、まあお前お供をおしな」
母親を伴ひては大いに風流ならず、頗《すこぶ》る妙ならずと思へば、唯継は飽くまでこれを防がんと、
「いや、御母さんには却《かへ》つて御迷惑です。道が良くないから御母さんにはとても可けますまい。実際貴方には切《た》つてお勧め申されない。御迷惑は知れてゐる。何も遠方へ行くのではないのだから、御母さんが一処でなくても可いぢやありませんか、ねえ。私折角思立つたものでありますから、それでは一寸其処までで可いから附合つて下さい。貴女が可厭《いや》だつたら直《すぐ》に帰りますよ、ねえ。それはなかなか好い景色だから、まあ私に騙《だま》されたと思つて来て御覧なさいな、ねえ」
この時|忙《せは》しげに聞えし靴音ははや止《や》みたり。人は出去《いでさ》りしにあらで、七八間|彼方《あなた》なる木蔭に足を停《とど》めて、忍びやかに様子を窺ふなるを、此方《こなた》の三人《みたり》は誰《たれ》も知らず。彳《たたず》める人は高等中学の制服の上に焦茶の外套
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