の姿したるにはあらずやと、始めて彼を見るものは皆疑へり。一番の勝負の果てぬ間に、宮といふ名は普《あまね》く知られぬ。娘も数多《あまた》居たり。醜《みにく》きは、子守の借着したるか、茶番の姫君の戸惑《とまどひ》せるかと覚《おぼし》きもあれど、中には二十人並、五十人並優れたるもありき。服装《みなり》は宮より数等《すとう》立派なるは数多《あまた》あり。彼はその点にては中の位に過ぎず。貴族院議員の愛娘《まなむすめ》とて、最も不器量《ふきりよう》を極《きは》めて遺憾《いかん》なしと見えたるが、最も綺羅《きら》を飾りて、その起肩《いかりがた》に紋御召《もんおめし》の三枚襲《さんまいがさね》を被《かつ》ぎて、帯は紫根《しこん》の七糸《しちん》に百合《ゆり》の折枝《をりえだ》を縒金《よりきん》の盛上《もりあげ》にしたる、人々これが為に目も眩《く》れ、心も消えて眉《まゆ》を皺《しわ》めぬ。この外|種々《さまざま》色々の絢爛《きらびやか》なる中に立交《たちまじ》らひては、宮の装《よそほひ》は纔《わづか》に暁の星の光を保つに過ぎざれども、彼の色の白さは如何《いか》なる美《うつくし》き染色《そめいろ》をも奪ひ
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