《まび》れて、唯《ただ》これ修羅道《しゆらどう》を打覆《ぶつくりかへ》したるばかりなり。
海上風波の難に遭《あ》へる時、若干《そくばく》の油を取りて航路に澆《そそ》げば、浪《なみ》は奇《くし》くも忽《たちま》ち鎮《しづま》りて、船は九死を出《い》づべしとよ。今この如何《いかに》とも為《す》べからざる乱脈の座中をば、その油の勢力をもて支配せる女王《によおう》あり。猛《たけ》びに猛ぶ男たちの心もその人の前には和《やはら》ぎて、終《つひ》に崇拝せざるはあらず。女たちは皆|猜《そね》みつつも畏《おそれ》を懐《いだ》けり。中の間なる団欒《まどゐ》の柱側《はしらわき》に座を占めて、重《おも》げに戴《いただ》ける夜会結《やかいむすび》に淡紫《うすむらさき》のリボン飾《かざり》して、小豆鼠《あづきねずみ》の縮緬《ちりめん》の羽織を着たるが、人の打騒ぐを興あるやうに涼き目を※[#「※」は「目+登」、10−13]《みは》りて、躬《みづから》は淑《しとや》かに引繕《ひきつくろ》へる娘あり。粧飾《つくり》より相貌《かほだち》まで水際立《みづぎはた》ちて、凡《ただ》ならず媚《こび》を含めるは、色を売るものの仮
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