建てるのです。外国へ此方《こちら》の塗物を売込む会社。これは去年中からの計画で、いよいよこの三四月頃には立派に出来上る訳でありますから、私も今は随分|忙《せはし》い体《からだ》、なにしろ社長ですからな。それで私が行かなければ解らん事があるので、呼びに来た。で、翌《あす》の朝立たなければならんのであります」
「おや、それは急な事で」
「貴方がたも一所《いつしよ》にお立ちなさらんか」
彼は宮の顔を偸視《ぬすみみ》つ。宮は物言はん気色《けしき》もなくて又母の答へぬ。
「はい、難有《ありがた》う存じます」
「それとも未《ま》だ御在《おいで》ですか。宿屋に居るのも不自由で、面白くもないぢやありませんか。来年あたりは一つ別荘でも建てませう。何の難《わけ》は無い事です。地面を広く取つてその中に風流な田舎家《ゐなかや》を造るです。食物などは東京から取寄せて、それでなくては実は保養には成らん。家が出来てから寛緩《ゆつくり》遊びに来るです」
「結構でございますね」
「お宮さんは、何ですか、かう云ふ田舎の静な所が御好なの?」
宮は笑《ゑみ》を含みて言はざるを、母は傍《かたはら》より、
「これはもう遊ぶ事
前へ
次へ
全708ページ中78ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング