りて、船板の牀几《しようぎ》を据ゑたる木《こ》の下《もと》を指して緩《ゆる》く歩めり。彼の病は未《いま》だ快からぬにや、薄仮粧《うすげしやう》したる顔色も散りたる葩《はなびら》のやうに衰へて、足の運《はこび》も怠《たゆ》げに、動《とも》すれば頭《かしら》の低《た》るるを、思出《おもひいだ》しては努めて梢を眺《なが》むるなりけり。彼の常として物案《ものあんじ》すれば必ず唇《くちびる》を咬《か》むなり。彼は今|頻《しきり》に唇を咬みたりしが、
「御母《おつか》さん、どうしませうねえ」
いと好く咲きたる枝を飽かず見上げし母の目は、この時漸く娘に転《うつ》りぬ。
「どうせうたつて、お前の心一つぢやないか。初発《はじめ》にお前が適《い》きたいといふから、かう云ふ話にしたのぢやないかね。それを今更……」
「それはさうだけれど、どうも貫一《かんいつ》さんの事が気になつて。御父《おとつ》さんはもう貫一さんに話を為《な》すつたらうか、ねえ御母《おつか》さん」
「ああ、もう為すつたらうとも」
宮は又唇を咬みぬ。
「私は、御母さん、貫一さんに顔が合されないわね。だから若《も》し適《ゆ》くのなら、もう逢《
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