《いろいろ》考へて置くが可《い》いの」
「はい」

     第 七 章

 熱海は東京に比して温きこと十余度なれば、今日|漸《やうや》く一月の半《なかば》を過ぎぬるに、梅林《ばいりん》の花は二千本の梢《こずゑ》に咲乱れて、日に映《うつろ》へる光は玲瓏《れいろう》として人の面《おもて》を照し、路《みち》を埋《うづ》むる幾斗《いくと》の清香《せいこう》は凝《こ》りて掬《むす》ぶに堪《た》へたり。梅の外《ほか》には一木《いちぼく》無く、処々《ところどころ》の乱石の低く横《よこた》はるのみにて、地は坦《たひらか》に氈《せん》を鋪《し》きたるやうの芝生《しばふ》の園の中《うち》を、玉の砕けて迸《ほとばし》り、練《ねりぎぬ》の裂けて飜《ひるがへ》る如き早瀬の流ありて横さまに貫けり。後に負へる松杉の緑は麗《うららか》に霽《は》れたる空を攅《さ》してその頂《いただき》に方《あた》りて懶《ものう》げに懸《かか》れる雲は眠《ねむ》るに似たり。習《そよ》との風もあらぬに花は頻《しきり》に散りぬ。散る時に軽《かろ》く舞ふを鶯《うぐひす》は争ひて歌へり。
 宮は母親と連立ちて入来《いりきた》りぬ。彼等は橋を渡
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