ろし》いぢや御座いませんか。本当に今日は不好《いや》な御顔色でゐらつしやるから、それがかう消えて了ふやうに、奮発して召上りましよ」
彼は覚えず薄笑《うすわらひ》して、
「薬だつてさうは利《き》かんさ」
「どうあそばしたので御座います。何処《どこ》ぞ御体がお悪いのなら、又無理に召上るのは可う御座いませんから」
「体は始終悪いのだから、今更驚きも為んが……ぢや、もう一盃飲まうか」
「へい、お酌。ああ、余《あんま》りお見事ぢや御座いませんか」
「見事でも可かんのかい」
「いいえ、お見事は結構なのですけれど、余《あんま》り又――頂戴……ああ恐入ります」
「いや、考へて見ると、人間と云ふものは不思議な者だ。今まで不見不知《みずしらず》の、実に何の縁も無いお前さん方が、かうして内に来て、狭山君はああして実体《じつてい》の人だし、お前さんは優く世話をしてくれる、私は決して他人のやうな心持は為《せ》んね。それは如何《いか》なる事情が有つてかう成つたにも為よ、那裏《あすこ》で逢《あ》はなければ、何処《どこ》の誰だかお互に分らずに了つた者が、急に一処に成つて、貴方がどうだとか、私《わたくし》がかうだとか
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