好《いや》は知れてゐます」
「うむ、さうとも」
「さうなんですけれど金ゆゑで両個《ふたり》が今死ぬのも余《あんま》り悔いから、三千円きつと出すか、出さないか、それは分りませんけれど、もし出したらば出さして、なあに私は那裏《あつち》へ行つたつて、直《ぢき》に迯《に》げて来さへすりや、切れると云ふんぢやなし、少《すこし》の間《ま》不好《いや》な夢を見たと思へば、それでも死ぬよりは愈《まし》だらう、と私はさう申しますと、狭山さんは、それは詐取《かたり》だ……」
「それは詐取《かたり》だ! さうとも」
あだかも我名の出でしままに、男はこれより替りて陳《の》べぬ。
「詐取《かたり》で御座いますとも! 情婦《をんな》を種に詐取を致すよりは、費消《つかひこみ》の方が罪は夐《はるか》に軽う御座います。そんな悪事を働いてまでも活きてゐやうとは、私《わたくし》は決して思ひは致しません。又これに致しましても、あれまで振り通した客に、今と成つて金ゆゑ体を委《まか》せるとは、如何《いか》なる事にも、余《あんま》り意気地が無さ過ぎて、それぢや人間の皮を被《かぶ》つてゐる効《かひ》が御座りませんです。私は金に窮《
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