《すく》ふ能はずして、今|却《かへ》りて得知らぬ他人に恵みて余有る身の、幾許《いかばかり》幸《さち》無くも又愚なるかを思ひて、謂ふばかり無く悲めるなり。
時に愛子は話を継ぎぬ。貫一は再び耳を傾けつ。
「そんな捫懌《もんちやく》最中に、狭山さんの方が騒擾《さわぎ》に成りましたんで、私の事はまあどうでも、ここに三千円と云ふお金が無い日には、訴へられて懲役に遣られると云ふんですから、私は吃驚《びつくら》して了つて、唯もう途方に昧《く》れて、これは一処に死ぬより外は無いと、その時|直《すぐ》にさう念つたんで御座います。けれども、又考へて、背に腹は替へられないから、これは不如《いつそ》富山に訳を話して、それだけのお金をどうにでも借りるやうに為やうかとも思つて見まして、狭山さんに話しましたところ、俺の身はどうでも、お前の了簡ぢや、富山の処へ行くのが可いか、死ぬのが可いか、とかう申すので御座いませう」
「うむ、大きに」
「私はあんな奴に自由に為れるのはさて置いて、これまでの縁を切るくらゐなら死んだ方が愈《まし》だと、初中終《しよつちゆう》言つてをりますんですから、あんな奴に身を委《まか》せるの、不
前へ
次へ
全708ページ中661ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング