、有つても無いも同然だから、その内に隠居でもさせて、私を内へ入れてやるからと、まあさう云つたやうな口気《くちぶり》なんで御座います」
「さうして、それは事実なのですか、妻君を隠居させるなどと云ふのは」
「随分ちやらつぽこ[#「ちやらつぽこ」に傍点]を言ふ人なんですから、なかなか信《あて》にはなりは致しませんが、妻君の病身の事や、そんなこんなで余《あんま》り内の面白くないのは、どうも全くさうらしいんで御座んす」
「ははあ」
 彼は遽《にはか》に何をや打案ずらん、夢むる如き目を放ちて、
「折合が悪いですか!……病身ですか!……隠居をさせるのですか!……ああ……さうですか!」
 宮の悔、宮の恨、宮の歎《なげき》、宮の悲《かなしみ》、宮の苦《くるしみ》、宮の愁《うれひ》、宮が心の疾《やまひ》、宮が身の不幸、噫《ああ》、竟《つひ》にこれ宮が一生の惨禍! 彼の思は今|将《は》たこの憐《あはれ》むに堪へたる宮が薄命の影を追ひて移るなりき。
 貫一はかの生ける宮よりも、この死なんと為る女の幾許《いかばかり》幸《さいはひ》にかつ愚ならざるかを思ひて、又|躬《みづから》の、先には己《おのれ》の愛する者を拯
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