る彼の理不尽を憤りて、責むべき事、詰《なじ》るべき事、罵《ののし》るべき、言破るべき事、辱《はぢし》むべき事の数々は沸《わ》くが如く充満《みちみ》ちたれど、彼は神にも勝《まさ》れる恩人なり。理非を問はずその言《ことば》には逆ふべからずと思へば、血出づるまで舌を咬《か》みても、敢《あへ》て言はじと覚悟せるなり。
彼は又思へり。恩人は恩を枷《かせ》に如此《かくのごと》く逼《せま》れども、我はこの枷の為に屈せらるべきも、彼は如何《いか》なる斧《をの》を以てか宮の愛をば割かんとすらん。宮が情《なさけ》は我が思ふままに濃《こまやか》ならずとも、我を棄つるが如きさばかり薄き情にはあらざるを。彼だに我を棄てざらんには、枷も理不尽も恐るべきかは。頼むべきは宮が心なり。頼まるるも宮が心|也《なり》と、彼は可憐《いとし》き宮を思ひて、その父に対する慍《いかり》を和《やはら》げんと勉《つと》めたり。
我は常に宮が情《なさけ》の濃《こまやか》ならざるを疑へり。あだかも好しこの理不尽ぞ彼が愛の力を試むるに足るなる。善し善し、盤根錯節《ばんこんさくせつ》に遇《あ》はずんば。
「嫁に遣ると有仰《おつしや》るのは
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