「貴方、その指環を私のと取替事《とりかへつこ》して下さいね」
「さうか」
 各《おのおの》その手に在るを抜きて、男は実印用のを女の指に、女はダイアモンド入のを男の指に、※[#「※」は「てへん+(鐶−金)」、436−2]《さ》し了《をは》りてもなほ離れかねつつ、物は得言はでゐたり。
 颯《さ》と鳴りて雨は一時《ひとしきり》繁《しげ》く灑《そそ》ぎ来《きた》れり。
「ああ、大相降つて来た」
「貴方は不断から雨が所好《すき》だつたから、きつとそれで……暇《いとま》……乞《ごひ》に降つて来たんですよ」
「好い折だ。あの雨を肴《さかな》に……お静、もう覚悟を為ろよ!」
「あ……あい。狭山さん、それぢや私も……覚……悟したわ」
「酒を持つて来な」
「あい」
 お静も今は心を励して、宵の程|誂《あつら》へ置きし酒肴《しゆこう》の床間《とこのま》に上げたるを持来《もてき》て、両箇《ふたり》が中に膳を据れば、男は手早く燗《かん》して、その間《ま》に各《おのおの》服を更《あらた》むる忙《せは》しさは、忽《たちま》ち衣《きぬ》の擦《す》り、帯の鳴る音高く※[#「※」は「糸+卒」、436−12]※[#「※
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