《まれ》なる山中《やまなか》には来《きた》れる。その罪を※[#「※」は「しんにょう+官」、432−1]《のが》れんが為か、その苦と憂とを忘れんが為か、或《あるひ》はその愛を全うせんが為か、明《あきらか》に彼等は夫婦ならず、又は、女の芸者風なるも、決して尋常の隠遊《かくれあそび》にあらずして、自《おのづ》から穂に露《あらは》るるところ有り。さては何等《なにら》の密会ならん。
 貫一は彼を以《も》て女を偸《ぬす》みて奔《はし》る者ならずや、と先《まづ》推《すい》しつつ、尚《な》ほ如何にやなど、飽かず疑へる間より、忽《たちま》ち一片の反映は閃《きらめ》きて、朧《おぼろ》にも彼の胸の黯《くら》きを照せり。
 彼はこの際熱海の旧夢を憶《おも》はざるを得ざりしなり。
 世上貫一の外《ほか》に愛する者無かりし宮は、その貫一と奔るを諾《うべな》はずして、僅《わづか》に一|瞥《べつ》の富の前に、百年の契を蹂躙《ふみにじ》りて吝《をし》まざりき。噫《ああ》我が当時の恨、彼が今日《こんにち》の悔! 今|彼女《かのをんな》は日夜に栄の衒《てら》ひ、利の誘《いざな》ふ間に立ち、守るに難き節を全うして、世の容《い
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