ぢやありませんか。だから、私はさう言つて遣つた、お気の毒だが、貴方は大方目が眩《くら》んで、そりやお袋を縛つたんだらうつて」
聴ゐる狭山は小気味好《こきみよ》しとばかりに頷《うなづ》けり。
「それで那奴《あいつ》は全然《すつかり》慍《おこ》つて了つて、それからの騒擾《さわぎ》でさ。無礼な奴だとか何とか言つて、私は襟《えり》を持つて引擦《ひきず》り仆《たふ》された。随分飲んでゐたから、やつぱり酔つてゐたんでせう。その時はもう全《まる》で夢中で、唯《ただ》那奴の憎らしいのが胸一杯に込上《こみあ》げて、這畜生《こんちくしよう》と思ふと、突如《いきなり》其処《そこ》に在つたお皿を那奴の横面《よこつつら》へ叩付《たたきつ》けて遣つた。丁度それが眉間《みけん》へ打着《ぶつか》つて血が淋漓《だらだら》流れて、顔が半分真赤に成つて了つた。これは居ちや面倒だと思つたから、家中大騒を遣つてゐる隙《すき》を見て、窃《そつ》と飛出した事は飛出したけれど、別に往所《ゆきどころ》も無いから、丹子の阿母《おつか》さんの処へ駈込《かけこ》んだの。
ところが、好かつた事には、今旅から帰つたと云ふところなんで、時間を
前へ
次へ
全708ページ中627ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング