母《おつか》さんは傍《そば》から『ちやほや』して、そりや貴方、真面目《まじめ》ぢや見ちやゐられないお手厚《てあつ》さ加減なんだから、那奴は図に乗つて了つて、やあ、風呂を沸《わか》せだ事の、ビイルを冷《ひや》せだ事のと、あの狭い内へ一個《ひとり》で幅を為《し》やがつて、なかなか動《いご》きさうにも為ないんぢやありませんか。
 私は全で生捕《いけどり》に成つたやうなもので、出るには出られず、這箇《こつち》の事が有るから、さうしてゐる空《そら》は無し、あんな気の揉《も》めた事は有りはしない――本当《ほんと》にどうせうかと思つた。ええ、なあに、あんな奴は打抛出《おつぽりだ》して措《お》いて、這箇《こつち》は掻巻《かいまき》を引被《ひつかぶ》つて一心に考へてゐたんですけれど、もう憤《じ》れたくて耐らなくなつて来たから、不如《いつそ》かまはず飛出して了はうかと、余程《よつぽど》さう念つたものの、丹子《たんこ》の事も、ねえ、考へて見りや可哀《かはい》さうだし、あの子を始め阿母さんまで、私ばかりを頼《たより》に為てゐるものを、さぞや私の亡《な》い後には、どんなにか力も落さうし、又あの子も為ないでも好い
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