る事あらば、その時の人の思は如何《いか》なるべき! 可恐《おそろし》きまでに色を失へる貫一は空《むなし》く隆三の面《おもて》を打目戍《うちまも》るのみ。彼は太《いた》く困《こう》じたる体《てい》にて、長き髯をば揉みに揉みたり。
「お前に約束をして置いて、今更|変換《へんがへ》を為るのは、何とも気の毒だが、これに就いては私も大きに考へたところがあるので、必ずお前の為にも悪いやうには計はんから、可いかい、宮は嫁に遣る事にしてくれ、なう」
 待てども貫一の言《ことば》を出《いだ》さざれば、主《あるじ》は寡《すくな》からず惑へり。
「なう、悪く取つてくれては困るよ、あれを嫁に遣るから、それで我家《うち》とお前との縁を切つて了ふと云ふのではない、可いかい。大《たい》した事は無いがこの家は全然《そつくり》お前に譲るのだ、お前は矢張《やはり》私の家督よ、なう。で、洋行も為せやうと思ふのだ。必ず悪く取つては困るよ。
 約束をした宮をの、余所《よそ》へ遣ると云へば、何かお前に不足でもあるやうに聞えるけれど、決してさうした訳ではないのだから、其処《そこ》はお前が能《よ》く承知してくれんければ困る、誤解され
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