を随へて、百万金も購《あがな》ふ可からざる恋女房を得べき学士よ。彼は小買の米を風呂敷に提げて、その影の如く痩せたる犬とともに月夜を走りし少年なるをや。
「お前がさう思うてくれれば私《わし》も張合がある。就いては改めてお前に頼《たのみ》があるのだが、聴いてくれるか」
「どういふ事ですか、私で出来ます事ならば、何なりと致します」
彼はかく潔く答ふるに憚《はばか》らざりけれど、心の底には危むところ無きにしもあらざりき。人のかかる言《ことば》を出《いだ》す時は、多く能《あた》はざる事を強《し》ふる例《ためし》なればなり。
「外でも無いがの、宮の事だ、宮を嫁に遣《や》らうかと思つて」
見るに堪《た》へざる貫一の驚愕《おどろき》をば、せめて乱さんと彼は慌忙《あわただし》く語《ことば》を次ぎぬ。
「これに就いては私も種々《いろいろ》と考へたけれど、大きに思ふところもあるで、いつそあれは遣つて了《しま》うての、お前はも少《すこ》しの事だから大学を卒業して、四五年も欧羅巴《エウロッパ》へ留学して、全然《すつかり》仕上げたところで身を固めるとしたらどうかな」
汝《なんぢ》の命を与へよと逼《せま》らる
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