《いまし》められたるやうに、身の重きに堪《た》へず、心の転《うた》た苦《くるし》きを感じたり。その恩の余りに大いなるが為に、彼はその中《うち》に在りてその中に在ることを忘れんと為る平生《へいぜい》を省みたるなり。
「はい。非常な御恩に預りまして、考へて見ますると、口では御礼の申しやうもございません。愚父《おやぢ》がどれ程の事を致したか知りませんが、なかなかこんな御恩返を受けるほどの事が出来るものでは有りません。愚父の事は措《お》きまして、私は私で、この御恩はどうか立派に御返し申したいと念《おも》つてをります。愚父の亡《なくな》りましたあの時に、此方《こちら》で引取つて戴《いただ》かなかつたら、私は今頃何に成つてをりますか、それを思ひますと、世間に私ほど幸《さいはひ》なものは恐《おそら》く無いでございませう」
 彼は十五の少年の驚くまでに大人びたる己《おのれ》を見て、その着たる衣《きぬ》を見て、その坐れる※[#「※」は「ころもへん+因」、45−16]《しとね》を見て、やがて美き宮と共にこの家の主《ぬし》となるべきその身を思ひて、漫《そぞろ》に涙を催せり。実《げ》に七千円の粧奩《そうれん》
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