おそろし》き夜道ならんよ。戸一重外《とひとへそと》には、山颪《やまおろし》の絶えずおどろおどろと吹廻《ふきめぐ》りて、早瀬の波の高鳴《たかなり》は、真に放鬼の名をも懐《おも》ふばかり。
 折しも唾壺《はひふき》打つ音は、二間《ふたま》ばかりを隔てて甚だ蕭索《しめやか》に聞えぬ。
 貫一は何《なに》の故《ゆゑ》とも知らで、その念頭を得放れざるかの客の身の上をば、独り様々に案じ入りつつ、彼既に病客ならず、又我が識《し》る人ならずと為《せ》ば、何を以つて人を懼《おそ》るる態《かたち》を作《な》すならん。抑《そもそ》も彼は何者なりや。又何の尤《とが》むるところ有りて、さばかり人を懼るるや。
 貫一はこの秘密の鑰《かぎ》を獲んとして、左往右返《とさまかうさま》に暗中|摸索《もさく》の思《おもひ》を費すなりき。

     (二) の 二

 明《あく》る朝《あした》の食後、貫一は先《ま》づこの狭き畑下戸《はたおり》の隅々《すみずみ》まで一遍《ひとわたり》見周《みめぐ》りて、略《ほ》ぼその状況を知るとともに、清琴楼の家格《いへがら》を考へなどして、磧《かはら》に出づれば、浅瀬に架《かか》れる板橋の
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