本橋の方のお方で御座りやす」
「それぢや商人《あきんど》か」
「私能く知りやせん」
「どうだ、お前達と懇意にして話をするか」
「そりやなさりやす」
「俺と那箇《どつち》が為る」
「旦那様とですけ? そりや旦那様のやうにはなさりやせん」
「うむ、さうすると、俺の方がお饒舌《しやべり》なのだな」
「あれ、さよぢや御座りやせんけれど、那裏《あちら》のお客様は黙つてゐらつしやる方が多う御座りやす。さうして何でもお連様《つれさま》が直《ぢき》にいらしやる筈《はず》で、それを、まあ酷《えら》う待つてお在《いで》なさりやす」
「おお、伴《つれ》が後から来るのか。いや、大きに御馳走《ごちそう》だつた」
「何も御座りやせんで、お麁末様《そまつさま》で御座りやす」
 婢《をんな》は膳を引きて起ちぬ。貫一は顛然《ころり》と臥《ね》たり。
 二十間も座敷の数有る大構《おほがまへ》の内に、唯二人の客を宿せるだに、寂寥《さびしさ》は既に余んぬるを、この深山幽谷の暗夜に蔽《おほは》れたる孤村の片辺《かたほとり》に倚《よ》れる清琴楼の間毎に亘《わた》る長廊下は、星の下行く町の小路より、幾許《いかばかり》心細くも可恐《
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