おつけ》をお易《か》へ申して来ないか」
主《あるじ》の辞し去りて後、貫一は彼の所謂《いはゆる》何も無き[#「何も無き」に傍点]、椀《わん》も皿も皆黄なる鶏子一色《たまごいつしき》の膳に向へり。
「内にはお客は今|幾箇《いくたり》有るのだね」
「這箇《こちら》の外にお一方《ひとかた》で御座りやす」
「一箇《ひとり》? あのお客は単身《ひとり》なのか」
「はい」
「先《さつき》に湯殿で些《ちよつ》と遇《あ》つたが、男の客だよ」
「さよで御座りやす」
「あれは病人だね」
「どうで御座りやすか。――そんな事|無《ね》えで御座りやせう」
「さうかい。何処《どこ》も不良《わる》いところは無いやうかね」
「無《ね》えやうで御座りやすな」
「どうも病人のやうだが、さうでないかな」
「ああ、旦那様はお医者様で御座りやすか」
貫一は覚えず噴飯《ふんぱん》せんと為つつ、
「成程、好い事を言ふな。俺は医者ぢやないけれど、どうも見たところが病人のやうだから、さうぢやないかと思つたのだ。もう長く来てゐるお客か」
「いんえ、昨日《きのふ》お出《いで》になりやしたので」
「昨日来たのだ? 東京の人か」
「はい、日
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