跫音《あしおと》長く廊下に曳《ひ》いて、先のにはあらぬ小婢《こをんな》の夕餉《ゆふげ》を運び来《きた》れるに引添ひて、其処《そこ》に出でたる宿の主《あるじ》は、
「今日《こんにち》は好《よ》うこそ御越《おこ》し下さいまして、さぞ御労様《おつかれさま》でゐらつしやいませうで御座ります。ええ、又唯今程は格別に御茶料を下《くだ》し置れまして、甚《はなは》だ恐入りました儀で、難有《ありがた》う存じまして、厚く御礼を申上げまするで御座います。
ええ前以《ぜんもつ》てお詑《わび》を申上げ置きまするのは、召上り物のところで御座りまして一向はや御覧の通何も御座りませんで、誠に相済みません儀で御座いまするが、実は、未だ些《ちよつ》と時候もお早いので、自然お客様のお越《こし》も御座りませんゆゑ、何分用意|等《とう》も致し置きませんやうな次第で、然し、一両日《いちりようにち》中にはお麁末《そまつ》ながら何ぞ差上げまするやうに取計ひまするで御座いますで、どうぞ、まあ今明日《こんみようにち》のところは御勘弁を下さいまして、御寛《ごゆるり》と御逗留《ごとうりゆう》下さいまするやうに。――これ、早う御味噌汁《おみ
前へ
次へ
全708ページ中600ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング