さま》ならぬ面貌《おもて》は定《さだ》かに認め難かり。されども、自《おのづか》ら見識越《みしりごし》ならぬは明《あきらか》なるに、何が故《ゆゑ》に人目を避《さく》るが如き態《かたち》を作《な》すならん。華車《きやしや》なる形成《かたちづくり》は、ここ等辺《らあたり》の人にあらず、何人《なにびと》にして、何が故になど、貫一は徒《いたづら》に心牽《こころひか》れてゐたり。
 やがて彼が出づれば、待ちけるやうに男は入替りて、なほ飽くまで此方《こなた》を向かざらんと為つつ、蕭索《しめやか》に浴《ゆ》を行《つか》ふ音を立つるのみ。
 その膚《はだ》の色の男に似気無《にげな》く白きも、その骨纖《ほねほそ》に肉の痩《や》せたるも、又はその挙動《ふるまひ》の打湿《うちしめ》りたるも、その人を懼《おそ》るる気色《けしき》なるも、総《すべ》て自《おのづか》ら尋常《ただ》ならざるは、察するに精神病者の類《たぐひ》なるべし。さては何の怪むところ有らん。節は初夏の未《ま》だ寒き、この寥々《りようりよう》たる山中に来《きた》り宿《とま》れる客なれば、保養鬱散の為ならずして、湯治の目的なるを思ふべし。誠にさなり、彼
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