《あや》しとも甚《はなは》だ異し! 疾《と》く往きて、疾く還《かへ》らんと、遽《にはか》に率《ひきゐ》し俥《くるま》に乗りて、白倉山《しらくらやま》の麓《ふもと》、塩釜《しおがま》の湯《ゆ》、高尾塚《たかおづか》、離室《はなれむろ》、甘湯沢《あまゆざわ》、兄弟滝《あにおととのたき》、玉簾瀬《たまだれのせ》、小太郎淵《こたろうがぶち》、路《みち》の頭《ほとり》に高きは寺山《てらやま》、低きに人家の在る処、即ち畑下戸《はたおり》。

     第 二 章

 一村十二戸、温泉は五箇所に涌《わ》きて、五軒の宿あり。ここに清琴楼と呼べるは、南に方《あた》りて箒川《ははきがわ》の緩《ゆる》く廻《めぐ》れる磧《かはら》に臨み、俯《ふ》しては、水石《すいせき》の※[#「※」は「鄰−おおざと+(巛の波が2本)」、406−7]々《りんりん》たるを弄《もてあそ》び、仰げば西に、富士、喜十六《きじゆうろく》の翠巒《すいらん》と対して、清風座に満ち、袖《そで》の沢を落来《おちく》る流は、二十丈の絶壁に懸りて、素※[#「※」は「糸+(賺−貝)」、406−8]《ねりぎぬ》を垂れたる如き吉井滝《よしいのたき》あり。
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