る、その石もこれなりけん、と肩は自《おのづ》と聳《そび》えて、久く留《とどま》るに堪《た》へず。
数歩《すほ》を行けば、宮が命を沈めしその淵《ふち》と見るべき処も、彼が釈《と》けたる帯を曳《ひ》きしその巌《いはほ》も、歴然として皆在らざるは無し! 貫一が髪毛《かみのけ》は針《はり》の如く竪《た》ちて戦《そよ》げり。彼の思は前夜の悪夢を反復《くりかへ》すに等《ひとし》き苦悩を辞する能はざればなり。
夢ながら可恐《おそろし》くも、浅ましくも、悲くも、可傷《いたまし》くも、分《わ》く方無くて唯一図に切なかりしを、事もし一塲の夢にして止《とどま》らざらんには、抑《そもそ》も如何《いかん》! 今や塩原の実景は一々《いちいち》夢中の見るところ、然らばこの景既に夢ならず! 思掛《おもひが》けずもここに来にける吾身もまた夢ならず! 但《ただ》夢に欠く者とては宮|一箇《ひとり》のみ。纔《わづか》に彼のここに来《きた》らざるのみ!!
貫一はかく思到りて、我又夢に入りたるにあらざるかと疑はんとも為つ。夢ならずと為《せ》ば、我は由無《よしな》き処に来にけるよ。幸《さいはひ》に夢に似る事無くてあれかし。異
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