の乱流の間に横《よこた》はりて高さ二丈に余り、その頂《いただき》は平《たひらか》に濶《ひろが》りて、寛《ゆたか》に百人を立たしむべき大磐石《だいばんじやく》、風雨に歳経《としふ》る膚《はだへ》は死灰《しかい》の色を成して、鱗《うろこ》も添はず、毛も生ひざれど、状《かたち》可恐《おそろ》しげに蹲《うづくま》りて、老木の蔭を負ひ、急湍《きゆうたん》の浪《なみ》に漬《ひた》りて、夜な夜な天狗巌の魔風《まふう》に誘はれて吼《ほ》えもしぬべき怪しの物なり。
 その古《いにしへ》蒲生飛騨守氏郷《がもうひだのかみうじさと》この処に野立《のだち》せし事有るに因《よ》りて、野立石《のだちいし》とは申す、と例のが説出《ときいだ》すを、貫一は頷《うなづ》きつつ、目を放たず打眺《うちなが》めて、独り窃《ひそか》に舌を巻くのみ。
 彼は実《げ》に壑間《たにま》の宮を尋ぬる時、この大石《たいせき》を眼下に窺ひ見たりしを忘れざるなり。
 又は流るる宮を追ひて、道無きに困《くるし》める折、左右には水深く、崖高く、前には攀《よ》づべからざる石の塞《ふさが》りたるを、攀《よ》ぢて半《なかば》に到りて進退|谷《きはま》りつ
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