この世の無念はその時|霽《はら》す!」
さしも遣る方無く悲《かなし》めりし貫一は、その悲を立《たちどこ》ろに抜くべき術《すべ》を今覚れり。看々《みるみる》涙の頬《ほほ》の乾《かわ》ける辺《あたり》に、異《あやし》く昂《あが》れる気有《きあ》りて青く耀《かがや》きぬ。
「宮、待つてゐろ、俺も死ぬぞ! 貴様の死んでくれたのが余り嬉いから、さあ、貫一の命も貴様に遣る! 来世《らいせ》で二人が夫婦に成る、これが結納《ゆひのう》だと思つて、幾久《いくひさし》く受けてくれ。貴様も定めて本望だらう、俺も不足は少しも無いぞ」
さらば往きて汝《なんぢ》の陥りし淵《ふち》に沈まん。沈まば諸共《もろとも》と、彼は宮が屍《かばね》を引起して背《うしろ》に負へば、その軽《かろ》きこと一片《ひとひら》の紙に等《ひと》し。怪《あや》しと見返れば、更に怪し! 芳芬《ほうふん》鼻を撲《う》ちて、一朶《いちだ》の白百合《しろゆり》大《おほい》さ人面《じんめん》の若《ごと》きが、満開の葩《はなびら》を垂れて肩に懸《かか》れり。
不思議に愕《おどろ》くと為れば目覚《めさ》めぬ。覚むれば暁の夢なり。
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