かも言解く者のあらざれば、彼の慍《いかり》は野火の飽くこと知らで燎《や》くやうなり。
この夕《ゆふべ》隆三は彼に食後の茶を薦《すす》めぬ。一人|佗《わび》しければ留《とど》めて物語《ものがたら》はんとてなるべし。されども貫一の屈托顔《くつたくがほ》して絶えず思の非《あら》ぬ方《かた》に馳《は》する気色《けしき》なるを、
「お前どうぞ為《し》なすつたか。うむ、元気が無いの」
「はあ、少し胸が痛みますので」
「それは好くない。劇《ひど》く痛みでもするかな」
「いえ、なに、もう宜《よろし》いのでございます」
「それぢや茶は可《い》くまい」
「頂戴《ちようだい》します」
かかる浅ましき慍《いかり》を人に移さんは、甚《はなは》だ謂無《いはれな》き事なり、と自ら制して、書斎に帰りて憖《なまじ》ひ心を傷めんより、人に対して姑《しばら》く憂《うさ》を忘るるに如《し》かじと思ひければ、彼は努めて寛《くつろ》がんとしたれども、動《やや》もすれば心は空《そら》になりて、主《あるじ》の語《ことば》を聞逸《ききそら》さむとす。
今日|文《ふみ》の来て細々《こまごま》と優き事など書聯《かきつら》ねたらば、如
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