何《いか》に我は嬉《うれし》からん。なかなか同じ処に居て飽かず顔を見るに易《か》へて、その楽《たのしみ》は深かるべきを。さては出行《いでゆ》きし恨も忘られて、二夜三夜《ふたよみよ》は遠《とほざ》かりて、せめてその文を形見に思続けんもをかしかるべきを。
彼はその身の卒《にはか》に出行《いでゆ》きしを、如何《いか》に本意無《ほいな》く我の思ふらんかは能《よ》く知るべきに。それを知らば一筆《ひとふで》書きて、など我を慰めんとは為《せ》ざる。その一筆を如何に我の嬉く思ふらんかをも能く知るべきに。我を可憐《いと》しと思へる人の何故《なにゆゑ》にさは為《せ》ざるにやあらん。かくまでに情篤《なさけあつ》からぬ恋の世に在るべきか。疑ふべし、疑ふべし、と貫一の胸は又乱れぬ。主の声に驚かされて、彼は忽《たちま》ちその事を忘るべき吾《われ》に復《かへ》れり。
「ちと話したい事があるのだが、や、誠に妙な話で、なう」
笑ふにもあらず、顰《ひそ》むにもあらず、稍《やや》自ら嘲《あざ》むに似たる隆三の顔は、燈火《ともしび》に照されて、常には見ざる異《あやし》き相を顕《あらは》せるやうに、貫一は覚ゆるなりき。
「
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