つつ、宮はその可懐《なつかし》き拳《こぶし》に頻回《あまたたび》頬擦《ほほずり》したり。
「私はこれで死んで了へば、もう二度とこの世でお目に掛ることは無いのですから、せめて一遍の回向《えこう》をして下さると思つて、今はの際《きは》で唯一言《ただひとこと》赦して遣ると有仰《おつしや》つて下さい。生きてゐる内こそどんなにも憎くお思ひでせうけれど、死んで了へばそれつきり、罪も恨も残らず消えて土に成つて了ふのです。私はかうして前非を後悔して、貴方の前で潔く命を捨てるのも、その御詑《おわび》が為たいばかりなのですから、貫一さん、既往《これまで》の事は水に流して、もう好い加減に堪忍して下さいまし。よう、貫一さん、貫一さん!
 今思へばあの時の不心得が実に悔《くやし》くて悔くて、私は何とも謂ひやうが無い! 貴方が涙を零《こぼ》して言つて下すつた事も覚えてゐます。後来《のちのち》きつと思中《おもひあた》るから、今夜の事を忘れるなとお言ひの声も、今だに耳に付いてゐるわ。私の一図の迷とは謂ひながら何為《なぜ》あの時に些少《すこし》でも気が着かなかつたか。愚《おろか》な自分を責めるより外は無いけれど、死んで
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