なる畳に突立《つつた》つたり。宮は虚《すか》さず躍《をど》り被《かか》りて、我物得つと手に為れば、遣らじと満枝の組付くを、推隔《おしへだ》つる腋《わき》の下より後突《うしろづき》に、※[#「※」は「木+覇」、388−17]《つか》も透《とほ》れと刺したる急所、一声|号《さけ》びて仰反《のけぞ》る満枝。鮮血! 兇器! 殺傷! 死体! 乱心! 重罪! 貫一は目も眩《く》れ、心も消ゆるばかりなり。宮は犇《ひし》と寄添ひて、
「もうこの上はどうで私は無い命です。お願ですから、貫一さん、貴方の手に掛けて殺して下さい。私はそれで貴方に赦《ゆる》された積で喜んで死にますから。貴方もどうぞそれでもう堪忍《かんにん》して、今までの恨は霽《はら》して下さいまし、よう、貫一さん。私がこんなに思つて死んだ後までも、貴方が堪忍して下さらなければ、私は生替《いきかはり》死替《しにかはり》して七生《しちしよう》まで貫一さんを怨《うら》みますよ。さあ、それだから私の迷はないやうに、貴方の口からお念仏を唱《とな》へて、これで一思ひに、さあ貫一さん、殺して下さい」
 朱《あけ》に染みたる白刃《しらは》をば貫一が手に持添へ
前へ 次へ
全708ページ中563ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング