ゐるのですから、私を遠《とほざ》けやう為に、お話をなさるのなら、徒爾《むだ》な事で御座います。赤樫は私を恐れてをりませうとも、私|些《ちよつ》ともあの人を恐れてはをりませんです。けれども、折角さう思召《おぼしめ》すものなら、物は試《ためし》で御座いますから、間さん、貴方、赤樫にお話し遊ばして御覧なさいましな。
 私も貴方の事を吹聴致します。ああ云ふ主《ぬし》有る婦人と関係遊ばして、始終人目を忍んで逢引《あひびき》してゐらつしやる事を触散《ふれちら》しますから、それで何方《どちら》が余計迷惑するか、比較事《くらべつこ》を致しませう。如何《いかが》で御座います」
「男勝《をとこまさ》りの機敏な貴方にも似合はん、さすがは女だ」
「何で御座います?」
「お聞きなさい。男と女が話をしてゐれば、それが直《ただ》ちに逢引《あひびき》ですか。又|妙齢《としごろ》の女でさへあれば、必ず主有るに極《きま》つてゐるのですか。浅膚《あさはか》な邪推とは言ひながら、人を誣《し》ふるも太甚《はなはだし》い! 失敬千万な、気を着けて口をお利《き》きなさい」
「間さん、貴方、些《ちよつ》と此方《こちら》をお向きなさい
前へ 次へ
全708ページ中548ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング