こは何事と駭《おどろ》ける貫一は、身を避《さく》る暇《いとま》もあらず三つ四つ撃れしが、遂《つひ》に取つて抑へて両手を働かせじと為れば、内俯《うつぷし》に引据ゑられたる満枝は、物をも言はで彼の股《もも》の辺《あたり》に咬付《かみつ》いたり。怪《けし》からぬ女|哉《かな》、と怒《いかり》の余に手暴《てあら》く捩放《ねぢはな》せば、なほ辛《から》くも縋《すが》れるままに面《おもて》を擦付《すりつ》けて咽泣《むせびなき》に泣くなりき。
貫一は唯不思議の為体《ていたらく》に呆《あき》れ惑ひて言《ことば》も出《い》でず、漸《やうや》く泣ゐる彼を推斥《おしの》けんと為たれど、膠《にかは》の附きたるやうに取縋りつつ、益す泣いて泣いて止まず。涙の湿《うるほひ》は単衣《ひとへ》を透《とほ》して、この難面《つれな》き人の膚《はだへ》に沁《し》みぬ。
捨置かば如何《いか》に募らんも知らずと、貫一は用捨無く※[#「※」は「(夕+匕)/手」、376−12]放《もぎはな》して、起たんと為るを、彼は虚《すか》さず※[#「※」は「夕/寅」、376−12]《まつは》りて、又泣顔を擦付《すりつく》れば、怺《こら》へか
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