分|酷《ひど》い話だ。これが互に愛してゐる間《なか》の仕草だらうか。深く愛してゐるだけにかう云ふ事を為《さ》れると実に憎い。
 小説的かも知れんけれど、八犬伝《はつけんでん》の浜路《はまじ》だ、信乃《しの》が明朝《あした》は立つて了ふと云ふので、親の目を忍んで夜更《よふけ》に逢《あ》ひに来る、あの情合《じやうあひ》でなければならない。いや、妙だ! 自分の身の上も信乃に似てゐる。幼少から親に別れてこの鴫沢の世話になつてゐて、其処《そこ》の娘と許嫁《いひなづけ》……似てゐる、似てゐる。
 然し内の浜路は困る、信乃にばかり気を揉《もま》して、余り憎いな、そでない為方《しかた》だ。これから手紙を書いて思ふさま言つて遣《や》らうか。憎いは憎いけれど病気ではあるし、病人に心配させるのも可哀《かあい》さうだ。
 自分は又神経質に過るから、思過《おもひすごし》を為るところも大きにあるのだ。それにあの人からも不断言はれる、けれども自分が思過《おもひすごし》であるか、あの人が情《じよう》が薄いのかは一件《ひとつ》の疑問だ。
 時々さう思ふ事がある、あの人の水臭い仕打の有るのは、多少《いくら》か自分を侮《あ
前へ 次へ
全708ページ中55ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング