ろけふり》を起つるなり。直《ぢき》に揉消《もみけ》せば人は静《しづま》るとともに、彼もまた前《さき》の如し。
少頃《しばし》有りて、門《かど》に入来《いりき》し女の訪《おとな》ふ声して、
「宅の旦那《だんな》様はもしや這裡《こちら》へいらつしやりは致しませんで為《し》たらうか」
主は忽《たちま》ち髯《ひげ》の頤《おとがひ》を回《めぐら》して、
「ああ、奥にお在《いで》で御座いますよ」
豊かと差覗《さしのぞ》きたる貫一は、
「おお、傘を持つて来たのか」
「はい。此方《こちら》にお在《いで》なので御座いましたか、もう方々お捜し申しました」
「さうか。客は帰つたか」
「はい、疾《とう》にお帰《かへり》になりまして御座います」
「四谷のも帰つたか」
「いいえ、是非お目に掛りたいと有仰《おつしや》いまして」
「居る?」
「はい」
「それぢや見付からんと言つて措《お》け」
「ではお帰りに成りませんので?」
「も少し経《た》つたら帰る」
「直《ぢき》にもうお中食《ひる》で御座いますが」
「可《い》いから早く行けよ」
「未《ま》だ旦那様は朝御飯も」
「可いと言ふに!」
老婢は傘と足駄《あしだ》
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