五内《ごない》渾《すべ》て燃え、四肢《しし》直《ただち》に氷らんと覚えて、名状すべからざる感情と煩悶《はんもん》とは新に来《きた》りて彼を襲へるなり。
 主《あるじ》は貫一が全濡《づぶぬれ》の姿よりも、更に可訝《いぶかし》きその気色《けしき》に目留めて、問はでも椿事《ちんじ》の有りしを疑はざりき。ここまで身は遁《のが》れ来にけれど、なかなか心安からで、両人《ふたり》を置去《おきざり》に為《せ》し跡は如何《いかに》、又我が為《せ》んやうは如何《いかに》など、彼は打惑へり。沸くが如きその心の騒《さわが》しさには似で、小暗《をぐら》き空に満てる雨声《うせい》を破りて、三面の盤の鳴る石は断続して甚《はなは》だ幽なり。主《あるじ》はこの時|窓際《まどぎは》の手合観《てあはせみ》に呼れたれば、貫一は独り残りて、未だ乾《ひ》ぬ袂《たもと》を翳《かざ》しつつ、愈《いよい》よ限無く惑ひゐたり。遽《にはか》に人の騒立つるに愕《おどろ》きて顔を挙《あぐ》れば、座中|尽《ことごと》く頸《くび》を延べて己《おの》が方《かた》を眺め、声々に臭しと喚《よば》はるに、見れば、吾が羽織の端《はし》は火中に落ちて黒煙《く
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