も御遠慮には及びませんで御座います。貴方こそさぞ御残念でゐらつしやいませう」
「はい、誠に残念でございます」
「さやうで御座いませうとも」
「四五年ぶりで逢ひましたので御座いますから、色々昔話でも致して今日《こんにち》は一日遊んで参らうと楽《たのしみ》に致してをりましたのを、実に残念で御座います」
「大きに」
「さやうなら私はお暇《いとま》を致しませう」
「お帰来《かへり》で御座いますか。丁度唯今小降で御座いますね」
「いいえ、幾多《いくら》降りましたところが俥《くるま》で御座いますから」
互に憎し、口惜《くちを》しと鎬《しのぎ》を削る心の刃《やいば》を控へて、彼等は又|相見《あひみ》ざるべしと念じつつ別れにけり。
第 七 章
家の内を隈無《くまな》く尋ぬれども在らず、さては今にも何処《いづこ》よりか帰来《かへりこ》んと待てど暮せど、姿を晦《くらま》せし貫一は、我家ながらも身を容《い》るる所無き苦紛《くるしまぎ》れに、裏庭の木戸より傘《かさ》も※[#「※」は「敬/手」、364−5]《さ》さで忍び出でけるなり。
されど唯一目散に脱《のが》れんとのみにて、卒《にはか》に
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