から」
「まあ、さやうで。余程何でございますか、御遠方で?」
「はい……広島の方に居りまして御座います」
「はあ、さやうで。唯今は何方《どちら》に」
「池端《いけのはた》に居ります」
「へえ、池端、お宜《よろし》い処で御座いますね。然し、夙《かね》て間様のお話では、御自分は身寄も何も無いから、どうぞ親戚同様に末の末まで交際したいと有仰《おつしや》るもので御座いますから、全くさうとばかり私《わたくし》信じてをりましたので御座いますよ。それに唯今かうして伺ひますれば、御立派な御親戚がお有り遊ばすのに、どう云ふお意《つもり》であんな事を有仰つたので御座いませう。何も親戚のお有りあそばす事をお隠しになるには当らんぢや御座いませんか。あの方は時々さう云ふ水臭い事を一体|作《なさ》るので御座いますよ」
 疑《うたがひ》の雲は始て宮が胸に懸《かか》りぬ。父が甞《かつ》て病院にて見し女の必ず訳有るべしと指《さ》せしはこれならん。さては客来《きやくらい》と言ひしも詐《いつはり》にて、或《あるひ》は内縁の妻と定れる身の、吾を咎《とが》めて邪魔立せんとか、但《ただし》は彼人《かのひと》のこれ見よとてここに引
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