有ると云ふのにどうするのか」
「ぢや私はここに待つてゐますから」
「知らん! もう放せと言つたら」
用捨もあらず宮は捻倒《ねぢたふ》されて、落花の狼藉《ろうぜき》と起き敢《あ》へぬ間に貫一は出行《いでゆ》く。
(六) の 二
座敷外に脱ぎたる紫裏《むらさきうら》の吾妻《あづま》コオトに目留めし満枝は、嘗《かつ》て知らざりしその内曲《うちわ》の客を問はで止む能《あた》はざりき。又常に厚く恵《めぐま》るる老婢は、彼の為に始終の様子を告《つぐ》るの労を吝《をし》まざりしなり。さてはと推せし胸の内は瞋恚《しんい》に燃えて、可憎《につく》き人の疾《と》く出で来《こ》よかし、如何《いか》なる貌《かほ》して我を見んと為《す》らん、と焦心《せきごころ》に待つ間のいとどしう久《ひさし》かりしに、貫一はなかなか出《い》で来ずして、しかも子亭《はなれ》のほとほと人気《ひとけ》もあらざらんやうに打鎮《うちしづま》れるは、我に忍ぶかと、弥《いよい》よ満枝は怺《こら》へかねて、
「お豊さん、もう一遍|旦那《だんな》様にさう申して来て下さいな、私《わたし》今日は急ぎますから、些《ちよつ》とお目に懸
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